思い出のビデオテープ かび対策はあるのか(神戸新聞)
思い出のビデオテープ
かび対策はあるのか
決め手見つからず
東京 クリーニング業者登場
「数年前、夫婦旅行で撮ったビデオテープを出してみたら、黒いテープが真っ白。がく然とした」。こんな声を聞く。「白」の正体はカビ。旅行の思い出だけでなく、娘の結婚式、孫の初運動会など、家族にとっては大切な記録なのに、カビが内部にまで入ると、もう再生してみることはできないという。ビデオテープが、家庭に普及して25年。カビに頭を悩ましている人も、多いだろう。テープのカビを、取り除くの方法はあるのだろうか。
「梅雨と冬の時期に、カビについての問い合わせが多いですね」というのは、TDKサービスステーションの三倉千帆人係長。湿度の高い梅雨どきは分かるが、冬はなぜ…。寒くて外出せず、昔のテープを引っ張り出したらカビていた、というケースが多いそうだ。
カビはケースの窓から、テープの側面が白く見えるので分かるが、なぜ無機質のテープにカビが生えるのか。実はテープの表面には磁性体と、ノリを混ぜたものが塗られており、このノリを養分にするという。
生え方は、再生画面にノイズが入る軽いものから、何も映らなくなるまでさまざま。重症の場合、知らずに再生してヘッドを壊すこともある。こうなると、ヘッドを交換するしかない。
では、カビを取り除くにはどうしたらいいのだろう―。「結論から言うと、有効な手段はありません」と三倉氏。「有機溶剤で、テープをふく方法もあるものの、磁気塗膜が溶剤ではがれる恐れがあり、作業も困難です」
それより簡単なのは、早送り、巻き戻しでテープを高速で送り、カビを吹き飛ばしてしまう方法。「ある程度は落ちます。ただし、ヘッドを痛めるため、手持ちのデッキでは危険」(三倉氏)。巻き取りの専用機を使うのも手という。
こうした悩みにこたえてテープのクリーニングを専門に行う業者が登場した。東京・渋谷の日本ビデオ映像保存研究所。昨年秋、本格的に営業を始めたところ、これまでに約1,000本のテープが持ち込まれた。
代表の井古田秀さん(46)は、テープを早送りしながらカビを取る装置を開発した。改良を重ねて現在は5台目。扱っているのはいまのところVHS方式のテープだけで、クリーニング代は、規定料金(60分)2,500円あと10分ごとに500円。カビがひどい場合は、手作業の別料金になる。
送られてくるテープは、結婚式や子供の成長を記録したものが多い。がんを患ったおばあさんが「子供たちに残したくて」と送ってきた例もある。「他人には何でもない内容でも、本人には大切で、切実なんですね」と井古田さん。それでも、全体の3割は磁気データがカビに破壊され、手遅れという。
こうなると、やはりカビを生やさない保管法が大事になる。井古田さんは「大事なテープほど、大切にしまいがちです。“押入れに×年間”というのが一番だめ。トイレやふろの近くもよくない」という。
普通、テープは見終わった後、巻き戻して保管する。この時、カビが生えやすのは、テープの側面と冒頭の数10センチの表面。空気に触れるためだ。冒頭にカビをつけたまま再生すると、直ちにヘッドを傷める。
「ですから、逆に早送りで巻き取った状態で保管すればいい。そうすれば、テープの表面が空気に触れるのは一番終わりの部分。ここにカビが生えても、再生しないですみます」
井古田さんは「カビの生えたテープも、おそらく膨大な数。録画はやがて、ディスクのDVDに交代することになりますが、テープがある限りクリーニングの需要は続くでしょう」と話している。
問い合わせは同研究所〓03・3469・6722。